今年4月、厚生労働省は訪問介護サービスによる医療機関内での介助(院内介助)について、必要に応じて介護報酬上で算定できるといった内容の事務連絡を都道府県などの介護保険担当課などにあてて出した。しかし、院内介助に対する介護報酬については、2003年の通知でも同様の内容が明記されていた。7年経過した今、なぜ厚労省は同じような事務連絡を発したのか。そもそも、院内介助に対する介護報酬の有無は、要介護者にどんな影響を与えるのか―。今年2月、院内介助についてケアマネジャーに聞き取りを実施した淑徳大の結城康博准教授に話を聞いた。
―今年4月に出た事務連絡と03年の通知では、どこが違うのでしょうか。
基本姿勢が違います。03年の通知では、院内介助について「基本的には院内のスタッフにより対応されるべきものであるが、場合により(介護報酬の)算定対象となる」と明記されていました。さらに同年5月には、「ヘルパーの院内の待ち時間は算定できない」などの内容を盛り込んだ厚労省のQ&Aまで出ました。
一方、今回の事務連絡では算定できる要件の一例として、「適切なケアマネジメントが行われている上、院内スタッフらによる対応が難しく、利用者が介助を必要とする心身の状態である」などを提示した上、介助に対し適切に保険を適用している地方自治体の具体例も明示されています。また、文中には「院内介助であることをもって、一概に算定しない取り扱いとすることのないよう願います」というただし書きまで付きました。
―つまり、「院内介助への保険適用は、基本的にNG」という姿勢が、「適用すべき事例には積極的に適用しよう」と変わったわけですね。
その通りです。特に通院が必要な要介護者にとって、この変更は大きい。ただ、これで完璧というわけではありません。100点満点でいえば50点といったところですね。合格点には達していません。
―随分厳しい採点ですね。50点の減点要素は何ですか。
保険が適用できるかどうかの判断を、自治体任せにしている点です。確かに、今回の連絡事項では、判断材料となる条件について提示されている上、自治体の具体的な取り組みも示されています。それでも、こうした条件は「保険適用を判定する基準」として連絡されたのではなく、「参考として活用していただきますよう願います」という姿勢で提示されたにすぎません。
―しかし、保険適用の判断を自治体任せにすることが、なぜ問題なのでしょうか。
判断を自治体に任せていては、院内介助のサービスに対する地域格差が広がる恐れがあるからです。事実、今年2月、12都府県のケアマネジャーやヘルパー26人に、院内介助に対して介護保険がどのように適用されているかといった点や、制度そのものに対する意見などについて、聞き取りを実施した結果、地域によって状況が随分違うことが分かりました。
―具体的には、どんな格差が確認できたのでしょうか。
認知症や車いすが必要な要介護者への院内介助には介護保険を適用する自治体がある一方で、利用者がどんな状態であっても適用を認めない自治体もありました。中には失明し、一人では何もできない状態なのに、保険適用されない場合もあったほどです。また、介助に保険が適用されないため、通院そのものをあきらめてしまったという報告もありました。
―院内介助への保険適用に消極的な地域では、利用者が必要な治療まで自粛せざるを得ないことがある、ということですね。
まさにその通りです。しかも、自粛しているのは利用者ばかりではありません。
-どういうことでしょうか。
例えば、院内介助や通院介助をケアプランに組み込むことを自粛してしまった事業所もありました。さらに、保険適用に消極的な地域の病院では、介助の担い手を確保できないため、認知症の方の通院治療を自粛する例もあります。
こんな状況ですから、聞き取りしたケアマネジャーのほとんどは、院内介助における保険内適用を緩和すべきと訴えていました。具体的には、「1時間程度の介助」「生活保護の受給者」「独自で服薬管理ができない人」といった例については、無条件で保険を適用すべきという声が多かったですね。
―格差解消に向け真っ先に努力すべきなのは、どういう組織や人々でしょうか。
まずは厚労省でしょう。先に述べたような現場の声を参考にして、拘束力を持った明確な判断基準を自治体に向けて提示すべきです。それができなければ、いつまでたっても院内介助の地域格差は解消しません。結果、院内介助への保険適用に消極的な地域では、そこに住んでいるというだけで、必要な治療を断念せざるを得ない要介護者が増え続けるでしょう。
現場のケアマネジャーも、意識を変えるべきです。今年4月の事務連絡で、院内介助に対する国の姿勢が大きく転換したのは間違いありません。この事務連絡を“錦の御旗”とし、行政に対して積極的に保険適用するよう働き掛けましょう。言い換えるなら、ケアマネこそが、介護の現場を知り尽くしたプロフェッショナルであるという自負と責任感を持って行政を動かし、役人を啓発するくらいのつもりで活動してほしいということです。それが専門職としての責務ではないでしょうか。
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